
歯を失った際の治療法として、インプラントは自然な見た目と機能性を持ち、長期間の使用が可能です。しかし、全ての患者さんに適しているわけではありません。インプラントが向かない具体的な状況、それに代わる治療法についてもご説明します。
目次
インプラント治療とは?

インプラント治療は、失った歯を補うために人工の歯根を顎骨に埋め込み、その上に被せ物を装着する治療法です。他の治療法、例えばブリッジや入れ歯と比べ、次のようなメリットがあります。
- 自然な噛み心地と見た目
- 長期間の安定性
- 健康な歯を削る必要がない
ただし、全ての患者さんに適しているわけではありません。そのため、適応や向かないケースについて正しい知識を持つことが大切です。
インプラントが向かないケースとは?

インプラント治療は優れた方法ですが、患者さんの健康状態や口腔内環境によっては、適応外となるケースもあります。インプラントが向かない理由は、大きく以下の2つに分けられます。
1. 全身の健康状態
- 治療が身体的なリスクを伴う場合、インプラントは適さない可能性があります。
2. 口腔内環境の問題
- 歯周病や骨の不足がある場合、治療が難しくなることがあります。
それぞれについてご説明します。
全身の健康状態によるケース

糖尿病のコントロールが不十分な場合
糖尿病の患者さんでも血糖値が安定していればインプラントは可能ですが、コントロールが不十分な場合、感染リスクが増大し、治療後の骨結合(オッセオインテグレーション)が不十分になる可能性があります。高血糖状態が続くと傷の治癒が遅れ、骨への固定がうまくいかず、最悪の場合、インプラントがグラグラしだして抜けてしまうというリスクもあります。
骨粗しょう症や薬の影響
骨粗しょう症の患者さんは骨密度が低いため、インプラントがしっかり固定されないことがあります。しっかり固定されないと、グラグラして不安定になり、しっかりと噛める状態になりません。特に、骨粗しょう症の治療薬(ビスフォスフォネート)の影響で顎骨壊死が起こるリスクがあるため、事前に専門医と慎重な相談が必要です。
心血管疾患や自己免疫疾患
心血管疾患を抱える患者さんは、手術中や術後の合併症リスクが高まる可能性があります。また、免疫力が低下する自己免疫疾患の患者さんは感染症のリスクが増えるため、インプラント治療を避けるべき場合があります。
放射線治療後の患者さん
がん治療として顎や頭部に放射線治療を受けた患者さんは、骨への血流が減少しているため、インプラントが適さない場合があります。
口腔内の条件が原因で向かないケース

顎骨の量や質が不十分な場合
インプラントは顎骨に埋め込む必要があるため、骨量が不足している場合や骨質が軟らかい場合には、治療が成功しないリスクがあります。特に、歯を失ってから長期間その状態を放置していると、骨が吸収されて減ってしまっているため、インプラントが出来なくなることがあります。
歯周病が進行している場合
重度の歯周病がある患者さんは、歯周組織が細菌に感染しやすく、炎症が骨に及ぶと、インプラントの安定性が損なわれる可能性があります。まずは歯周病の治療を優先することが重要です。
インプラントをしたいというご相談があった時点で、歯周病検査や歯のクリーニングを行います。少しの炎症なら、クリーニングを数回受けて頂き、セルフケアを丁寧に行うことで、かなり改善し、インプラントが可能な状態になります。
歯磨き習慣の不足
歯垢が溜まりやすい患者さんや、歯磨きの習慣が十分でない場合、インプラント周囲炎が発生しやすくなります。その結果、インプラントが失敗する可能性があります。
インプラントを維持するためには、正しい方法で歯磨きをすることが欠かせません。歯磨きが上手く出来なくて歯垢がたまってしまうと、インプラント周囲炎のリスクが高まり、治療の成功率が低下します。
その他、インプラント治療を避けるべき状況
喫煙の習慣がある場合
喫煙は血流を悪化させ、インプラントと骨が結合しにくくなります。また、喫煙は感染症やインプラント周囲炎のリスクを高めるため、治療の成功率が大幅に低下します。「禁煙はムリ」と思われる方は、まずは減煙から取り組んでみましょう。タバコをどれだけ減らせるかが、インプラント手術を成功させるためには必要な条件となります。
妊娠中の患者さん
妊娠中はホルモンバランスの変化や身体的負担を考慮し、大掛かりな外科手術は避けるべきとされています。インプラント治療は出産後に改めて検討するのが一般的です。歯の治療が可能な場合は、ブリッジで対応する場合が多いです。
成長期の患者さん
成長期にある若年層の場合、顎骨がまだ成長しているため、インプラントを埋め込む位置が将来的にずれる可能性があります。このため、成長が止まるまで治療は待つことが推奨されます。
インプラントが「一時的に向かない」ケースもある?
インプラント治療が“今すぐ”はできないけれど、将来的には可能になるケースも少なくありません。こういった「一時的に向かない状態」について知っておくと、必要以上に不安にならずに済みます。
以下のような場合、一度見送って、条件が整ったタイミングでの再検討が可能です。
1. 歯周病が進行している場合(でも治療すればOK)
歯周病が重度の場合、インプラントを行っても周囲に炎症が再発しやすく、成功率が下がります。ただし、以下の対応で改善が見込めます。
- 歯周病治療(歯石除去、歯周ポケットの洗浄など)
- セルフケアの見直し(歯磨き指導や道具の変更)
- 数回の歯科クリーニングと再評価
炎症がコントロールされれば、インプラント治療は可能に!
2. 骨量が不足している場合(骨造成で対応可)
長期間歯が抜けたままだと、顎の骨が吸収されてインプラントを支えられないことがありますが…
- 骨造成(GBR)
- サイナスリフト
- スプリットクレスト法 など
再生治療を行えば、インプラントができる可能性が高まります!
3. 全身疾患が一時的に不安定な場合
たとえば、糖尿病の血糖コントロールが不十分な時や、心疾患で投薬内容が変わったばかりのときなどは、インプラントを延期することがあります。
でも逆にいうと…
- 数値が安定してきたタイミングで再評価
- 主治医と連携しながら治療タイミングを調整
「今は待つべき」なだけで、未来の選択肢を閉じる必要はありません!
4. 妊娠中・授乳中の方
妊娠中はホルモンバランスの影響で歯周病になりやすく、またレントゲンや外科処置も避けたい時期です。授乳中も服薬制限などの理由から、一時的にインプラントを見送るケースがあります。
出産後や授乳終了後に再検討すればOK!
「今できない」は「一生できない」じゃない!
「インプラントができないかもしれない」と診断された場合でも、それは“今”の状態での判断にすぎません。
治療によって状態が改善すれば、多くのケースで再チャレンジが可能になります。落ち込まずに、「まずは治療を受けること」から始めてみましょう。
向かない場合の代替治療法とは?
インプラントが難しい場合でも、以下の選択肢が考えられます。
- ブリッジ治療・・隣の歯を支えにして失った歯を補う方法。
- 部分入れ歯・・取り外し可能な装置で機能を補う方法。
- 総入れ歯・・歯が全て失われた場合の選択肢として。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、医師との十分な相談を行い、患者さんのライフスタイルやご希望に合った治療法を選びましょう。インプラント治療は魅力的な選択肢ではありますが、患者さんの状況によっては向かない場合があります。
まとめ
インプラント治療は優れた治療法ですが、全ての患者さんに適しているわけではありません。全身の状態や口腔内の環境により、ご自身に合った治療法を選択することが大切です。また、向かない場合でも他の治療法が用意されているため、担当医としっかりと話し合い、納得のいく治療計画を立てましょう。