矯正歯科

矯正治療は顎関節に影響する?痛みの原因と対策

矯正治療は顎関節に影響する?痛みの原因と対策

茨木クローバー歯科・矯正歯科 歯科医師 清水 博行

矯正治療は顎関節への影響がある?

矯正治療そのものが顎関節症を“直接”引き起こすわけではありません。ただし、噛み合わせの変化や日常の癖が重なると、顎に負担がかかるケースがあります。専門的な管理のもとで行えば、むしろ顎関節が安定することもあります。

矯正治療を検討している方の中には、「装置をつけると顎関節に負担がかかるのでは?」「顎が痛くなるリスクはある?」と不安になる方が少なくありません。

顎関節は、日常生活のあらゆる動きに関わる繊細な構造であり、噛み合わせの変化によって敏感に反応することがあります。しかし、正確な知識を押さえておけば、矯正治療と顎関節の関係は過剰に恐れる必要はありません。

この記事はこんな方に向いています

  • 矯正治療を検討しており、顎関節症との関係が心配な方
  • すでに顎に不快感があり、矯正しても大丈夫か不安な方
  • 顎関節症にならないための注意点や予防策を知りたい方
  • できるだけ安全に矯正治療を進めたい方

この記事を読むとわかること

  1. 矯正治療が顎関節にどんな影響を与えるのか
  2. 顎関節に負担が出やすい人の特徴
  3. 矯正中に顎が痛くなる理由
  4. 顎関節症を避けるための注意点
  5. 安全に治療を続けるためのチェックポイント

 

矯正治療は顎関節にどんな影響があるの?

矯正治療は、歯並びだけでなく噛み合わせの位置をコントロールする治療です。そのため、治療中の噛み合わせの変化にあわせて顎関節にも微妙な力が加わります。

しかし、正しい治療計画のもとで進めれば、顎への負担は最小限に抑えられ、むしろ安定した噛み合わせによって顎関節が楽になることもあります。負担が出るかどうかは、歯の移動量・生活習慣・筋肉の癖など、複数の要因が組み合わさって決まります。

矯正は顎関節に影響する可能性はあるが、適切な治療なら大きな問題は起こりにくい。

矯正治療は「歯を整えるだけ」と思われがちですが、噛み合わせが変化する以上、顎関節への力のかかり方にも変化が生じます。この変化が大きすぎたり、短期間に強い負荷がかかると、顎関節に違和感が出る場合があります。

ただし、顎関節への負担は矯正治療だけで決まるわけではありません。
影響を左右する要因は多く、たとえば以下のようなものがあります。

  1. 食いしばりの癖
    → 無意識に強い力で噛む癖があると、顎関節に余分な負荷がかかりやすくなります。
  2. 姿勢の悪さ
    → スマホ姿勢や猫背は顎の位置を前に引っ張り、関節に負荷が集中します。
  3. 元々の顎関節の形態
    → もともと関節が敏感な方は、わずかなズレでも違和感を感じやすくなります。
  4. 噛み合わせの変化への順応のしやすさ
    → 歯や筋肉が変化に順応しにくい場合、負荷を受けやすくなります。

上記のように、「矯正が原因」と単純に言えるケースは少なく、多くは複合的な要因が重なって生じます。適切な設計で治療を進めることで、過度な負担を避けることができ、将来的には顎関節が安定するケースも少なくありません。

そもそも顎関節症はどんな症状があるの?

顎関節症は、顎の関節そのものだけではなく、周囲の筋肉・靭帯・骨のバランスが崩れることで起こります。口を開けづらい、カクカク音がする、疲れやすい、痛むなど、人によって症状の出方はさまざまです。矯正治療中に似た症状が出る場合もありますが、正確な診断が必要です。

顎関節症は、顎の関節や筋肉のバランスが崩れたときに起こる複合的な症状。

顎関節症は非常に幅広い症状を含む総称であり、一つの原因で説明できるケースは多くありません。代表的な症状は以下の通りです。

  1. 口を開けるとカクッと音がする
    → 顎の関節内で円板がずれ、動くたびに音がなる状態です。
  2. 口が開けづらい、途中で引っかかる
    → 関節や筋肉の動きがスムーズにいかず、運動が妨げられています。
  3. 顎の周囲がだるい・疲れやすい
    → 咬む筋肉に負担がかかり、疲労が蓄積している状態です。
  4. 顎やこめかみが痛む
    → 関節の炎症や筋肉の緊張が原因となります。

総括すると、顎関節症の発症には複数の因子が関係し、矯正治療との因果関係を明確に特定することは容易ではありません。ただ、矯正治療中に似た症状が出ることはあり、慎重な観察が必要です。

関連ページ:顎関節症はなぜ起こる?ストレス以外の主な原因とは?

矯正中に顎が痛くなるのはなぜ?

矯正治療では歯が少しずつ動くため、治療の各段階で噛み合わせが一時的に安定しない状態になります。この変化に筋肉や顎の関節が順応しきれないと、だるさ・疲労・痛みとして表れることがあります。痛みの程度は個人差が大きく、生活習慣や姿勢の悪さが痛みを助長する場合もあります。

噛み合わせが変わる途中段階で、顎の筋肉や関節が負担を感じやすくなるため。

矯正治療中に「顎が疲れる」「噛み合わせが安定しない」という声は珍しくありません。歯は順番に動いていくため、治療中はどうしても噛み合わせの高さや位置が微妙に変動します。

顎が痛くなる主な理由は以下の3つです。

1. 噛み合わせが不安定な期間があるため

歯が移動する途中では、上下の歯がしっかり噛み合わない瞬間が生じます。この“噛み合わせの揺らぎ”が顎の関節や筋肉に負担を与えることがあります。

2. 筋肉が新しい噛み合わせに慣れていないため

顎を動かす筋肉は、長年続いた動きの癖が染みついています。治療によって動きが変わると、順応までに時間がかかり、痛みとして出ることがあります。

3. 強い食いしばりや姿勢の悪さが重なるため

スマホを長時間見る姿勢や不良姿勢は顎が前方に引っ張られ、関節の負担が増幅します。矯正中は関節がデリケートになる時期もあり、この姿勢の悪さが痛みの引き金になることがあります。

総括すると、矯正中の顎の痛みは「治療の不具合」ではなく、「変化に順応している途中の現象」であることが多いです。痛みが長引く場合は、早めに担当医へ相談することが望ましいです。

顎関節に負担が出やすい人の特徴は?

顎関節の負担は、歯並びの状態だけでなく、生活習慣・癖・筋肉の緊張度など、多面的な要素で左右されます。特に食いしばりや姿勢の悪さを持つ方は、矯正中に負担が出やすい傾向があります。また、感情のストレスにより筋肉が硬くなりやすい方も注意が必要です。

生活習慣や癖がある方、筋緊張が強い方は顎に負担が出やすい。

顎関節への負担には個人差があります。以下の特徴が当てはまる方は、矯正中に負担が出やすい傾向があります。

  1. 日常的に食いしばりが強い方
    → 無意識の食いしばりは、顎関節に常に強い圧力を加えます。特に仕事中や集中している時に癖が出やすい方は注意が必要です。
  2. 猫背・ストレートネックの方
    → 頭が前に出る姿勢は、下顎に負担をかけます。慢性的な姿勢の悪さがある場合、顎関節に負荷が蓄積しやすいです。
  3. 睡眠の質が低い方(歯ぎしりが多い)
    → 就寝中の強い歯ぎしりは、顎関節のストレスを増大させます。矯正中は歯の安定性が低くなるため、負担が大きくなります。
  4. 緊張しやすく、筋肉が硬くなりやすい方
    → 肩こりや首こりが強い方は、顎の筋肉も緊張しやすい傾向があります。その結果、筋肉疲労から痛みにつながることがあります。

総括すると、「噛む動作以外の習慣」も顎関節に大きく影響します。矯正治療では噛み合わせが改善されるだけでなく、生活習慣を見直す良い機会にもなります。

矯正治療で顎への負担を避ける方法は?

矯正中の顎トラブルを予防するには、担当医の管理のもとで噛み合わせの変化を丁寧にチェックし、自身の生活習慣も整えることが重要です。普段の姿勢や食いしばり対策は、治療の安定性に大きく関わります。

正しい治療計画+生活習慣の見直しが予防の鍵。

顎への負担を減らすための工夫として、以下のような対策が効果的です。

  1. 治療計画を細かく確認する
    → 噛み合わせの移動には段階があり、無理のないペースで進めることが重要です。治療方針を理解しておくことで、不安を減らせます。
  2. 担当医に違和感を早めに伝える
    → 些細な違和感でも、早めに相談すると調整しやすくなります。痛みを我慢する必要はありません。
  3. 姿勢に気をつける
    → 長時間パソコンやスマホを使う場合は、肩と首への負担が顎関節に連動します。こまめに姿勢を直すことが大切です。
  4. 食いしばり対策(口の中を広く保つ意識)
    → 上下の歯を常に合わせない「安静位」を意識することで、顎関節の負担が軽減します。
  5. 無理に硬いものを噛まない
    → 矯正中は歯が動きやすいため、硬い食品は顎に過剰な負荷を与えることがあります。

総括すると、負担を減らすためには「医療側の管理」と「生活側の工夫」の両方が必須です。一方だけでは十分なケアとは言えません。

顎に不調がある場合、矯正治療は受けても大丈夫?

顎に痛みや違和感がある状態でも矯正治療を受けることはできます。ただし、症状の程度によっては先に顎関節症の治療を行う必要があります。関節が炎症を起こしている場合、状態が落ち着くまでは矯正の負担が強く出やすいため注意が必要です。

不調があっても矯正は可能。ただし症状が強い場合は先に治療が必要。

矯正治療は顎関節の状態と密接に関係するため、事前のチェックが欠かせません。

  1. 軽度の違和感なら矯正と並行してケアが可能
    → 痛みが強くない場合、姿勢改善や生活習慣の見直しを行いながら治療を進めるケースが多いです。
  2. 痛みが強い場合は先に顎関節症の治療を行う
    → 関節に炎症がある状態で歯を動かすと、負担が大きくなります。適切な診断を受けることが大切です。
  3. 矯正後に逆に安定するケースもある
    → 長年の不正咬合による顎のズレが改善されることで、関節の負担が減ることがあります。

総括すると、「痛みがあるから矯正はできない」というわけではありません。状態に合わせた柔軟な判断が必要です。

矯正後に顎関節が安定するケースはある?

噛み合わせのズレが原因で顎関節に負担がかかっていた場合、矯正によって噛み合わせが整うことで関節の動きがスムーズになり、症状が緩和されることがあります。特に奥歯の高さのバランスが改善することで、関節全体が安定するケースは多いです。

噛み合わせが改善することで、顎が楽になるケースも多い。

顎関節のトラブルは「間違った噛み合わせの力のかかり方」が原因で長年積み重なるケースがあります。この力の偏りが矯正で改善すると、関節がスムーズに動きやすくなり、症状が軽くなることがあります。

以下のケースでは、矯正後の改善が多くみられます。

  1. 奥歯の高さが整い、噛む力が均一に分散される
  2. 下顎が前後にずれていた状態が改善される
  3. 食いしばりの癖が減り、筋肉の負担が軽減される
  4. 歯並びのガタつきが減り、噛む動作がスムーズになる

総括すると、矯正治療は噛み合わせのバランスを整える治療でもあり、これが顎関節の健康につながるケースは少なくありません。

日常生活で顎の負担を減らすためのコツは?

顎に負担がかからない生活習慣を意識するだけで、症状の発生率は大きく減らせます。姿勢・食いしばり・睡眠環境の見直しがカギです。簡単にできることが多いので、今日から実践できます。

姿勢の改善と食いしばり対策が最大のポイント。

顎関節は、生活のクセを改善するだけでも負担を大きく減らすことができます。以下の習慣を心がけることが大切です。

  1. 上下の歯を離す意識(安静位の維持)
    → 力を抜いた状態では、上下の歯は触れていません。この状態を保つことで、関節の負担が減ります。
  2. 背筋を伸ばし、頭の位置を正す
    → 顎が前へ出ないように意識するだけで、関節の負荷が軽減します。スマホを見るときは特に注意が必要です。
  3. 睡眠環境を整える(枕の高さの見直し)
    → 枕が高すぎると顎が後ろへ押され、関節が圧迫されやすくなります。自然に呼吸しやすい高さを選びましょう。
  4. 無理に硬いものを噛まない
    → ガムや硬いお菓子は、矯正中の顎に負担が集中します。

日常の少しの意識で顎の状態は大きく変わります。矯正治療との相性も良くなり、トラブルの予防につながります。

まとめ

矯正治療は顎関節へ影響を与える可能性がありますが、その影響の出方は個人によって大きく異なります。噛み合わせの変化に伴う一時的な負担は、筋肉や生活習慣との組み合わせで症状が出やすくなるため、治療が“悪い影響を与えている”と断定することはできません。

大切なのは、
「治療計画を理解し、普段の生活習慣を整え、違和感を早めに医師と共有すること」。
これだけで顎関節の負担は大きく減らせます。

また、矯正後に顎関節がむしろ安定するケースも少なくありません。噛み合わせが整うことで関節の動きがスムーズになり、長期的な顎の健康につながることもあります。

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この記事の監修者
医療法人真摯会 茨木クローバー歯科
院長 清水 博行

大阪歯科大学卒業  日本補綴歯科学会  日本口腔インプラント学会

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