歯の主な働きは食べ物を噛む(咀嚼)と発音の調整です。そして噛むことは脳の働きと密接な関係があります。これらの歯の働きについてご説明します。
歯と脳の働きの関係
食べ物を噛むときには咀嚼筋、唇や頬の筋肉などを使います。そして食べ物を飲み込むときには舌筋、口蓋筋、舌骨筋群、咽頭の筋など、多くの筋を使います。
口の周りの神経は、食べ物が口に入って噛んだときに、歯の根っこと骨との間にある歯根膜や舌、口の周りの筋肉からの情報を脳に送り、脳と口の間での情報伝達と指令が行われます。
よく噛んで食事をとると、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という五感の情報が脳に送られ、
脳のあらゆる部位を活性化させます。
噛むことで認知力・記憶力が上がる
しっかり噛むことによって、脳の前頭前野の活性化が誘発されることがわかっています。
前頭前野は大脳皮質の約30%を占める大きな領域で、コミュニケーション、感情の制御、記憶のコントロール、意思決定などの働きを担っています。特に高齢者において前頭前野の活性化は認知力の向上につながるといわれています。
また、噛むことは脳の海馬も刺激します。脳に入った情報はいったん海馬で整理され、その後大脳皮質にファイルされていきます。海馬には位置や場所、方向などを把握する空間認知能力もあり、海馬の機能が落ちると空間認識能力も低下して自分がどこにいるのかわからなくなります。
ガムを噛んでもらいながら記憶テストを行うと、高齢者の海馬が活性化され、ガムを噛まないときよりも記憶テストの成績がアップしたという実験結果もあります。
歯の健康管理と健康寿命の関係
健康寿命とは、誰かの介護を必要とせず、健康な状態で自立した生活を送れる期間のことをいいます一人で自由に行きたいところに行き、病気などの疾患に悩まされずに、毎日を生き生きと送ることが出来る、この期間が長ければ長いほど健康寿命は長くなります。
日本人の健康寿命
男性72.14歳
女性74.79歳
厚生労働省の2016年の推計による
健康寿命が短くなる原因は、糖尿病や高血圧、脳梗塞や心筋梗塞などの病気です。これらの病気は命にかかわることもありますし、寝たきりの状態になることも少なくありません。
生活習慣病を防いで健康寿命を伸ばすには、食事の内容が大切です。同時に、歯をはじめとする口の中の健康も重要なポイントです。
噛めなくなると老化が進む
シニアになると歯の本数が減っていきますが、その原因の3割を虫歯が占めており、4割を歯周病が占めています。
歯周病は、歯茎や歯を支えている骨などの歯周組織が歯周病菌によって炎症を起こし破壊される病気で、日本人の成人の約8割が歯周病にかかっているといわれています。
自分の歯で一生おいしく食事を楽しめる高齢者もおられますが、一般的には高齢になるほど抜けた歯の本数が増え、代わりに入れ歯を装着して食事をすることになります。
近年ではインプラントも普及してきましたが、保険がきかない自由診療で治療費が高いため、誰でも治療を受けられるわけではありません。
歯周病や虫歯で歯を悪くして、十分に噛むことが出来ない人は多く、義歯を装着しても、噛む力はどうしても弱くなります。そして、良く噛めなくなると老化が進み、生活習慣病を招いて寿命まで縮めてしまうことが、近年の研究で明らかになってきました。
歯の働きと脳の関係に関するQ&A
歯の健康は健康寿命に密接な関係があります。歯周病や虫歯によって歯を失い、噛むことができなくなると栄養不足になり、生活習慣病を引き起こすリスクが高まります。良好な歯の健康は食事を適切に摂るために重要であり、健康寿命を伸ばす一つの要素となります。
歯の健康を保つためには、定期的な歯科検診と歯磨きが重要です。また、口の中の健康をサポートするためにバランスの取れた食事を心掛けることも大切です。歯周病や虫歯のリスクを減らすためには、砂糖の摂取を控え、適度なフッ素の使用も検討しましょう。
食べ物を噛む際に使用される口の周りの筋肉からの情報が脳に伝達され、脳の活性化に繋がります。噛むことによって脳の前頭前野が活性化され、認知力や記憶力の向上に寄与します。また、噛むことは海馬の刺激にもなり、空間認識能力の維持にも役立ちます。良好な歯の健康は脳の働きをサポートし、認知機能の維持に寄与します。
まとめ
歯は脳と密接なつながりを持つ臓器といえます。自分の歯を長持ちさせて、一生噛み続けられるかどうかが、私たちの健康寿命を大きく左右します。自分の歯であれ、入れ歯であれ、しっかり噛んで認知症や生活習慣病のリスクを下げましょう。